体動に伴うCVポート留置カテーテルの位置移動について
日立総合病院・放射線科 入江 敏之先生
日立総合病院・内科 石川 晶久先生
1. はじめに
大腸癌の化学療法の進歩により、CVポートの植え込み件数は飛躍的に増加している。当然のことながら合併症の件数も増加するわけで、当院でもカテーテルの損傷が問題となっている。従来、カテーテルの損傷頻度は1%内外とされており、当院症例での解析でも同様の結果であった[1]。しかしながら最近での当院症例の再検討結果では、留置期間の長い症例が蓄積されるにつれ損傷症例の頻度が4%と上昇し、従来報告と比較して高いことが判明した。これが当院での留置手技・カテーテル管理に起因するものか、あるいは他院でも生じている普遍的なものかは明らかではない。
当院では鎖骨下留置を基本とし、シリコーン製のグローション®カテーテルを使用している。これはこの場所の可動範囲が少なく、体動に起因したカテーテルのトラブルが生じにくいというコンセプトに基づいている。しかしながら抗がん剤効果判定CTの際に留置カテーテルを観察すると、カテーテルは意外なほど位置移動・変形している。(1A・1B)
腕を下げて撮影(1A)した場合と挙上して撮影(1B)した場合では、カテーテルの形状は全く異なる。この症例ではキンクは生じていないが、腕の上げ下げを繰り返すことにより、繰返し応力が特定箇所に働く危険があると推測される。
よって生活活動性が高く、カテーテルの特定箇所に繰返し応力が働いた症例において長期留置後に損傷を生じた可能性が高いと考えている。抗がん剤の進歩により長期留置症例が増加し、なおかつ活動性が向上した結果としてカテーテル損傷症例が増加したのかもしれない(2A・2B・C)。
痛みのみでカテーテル損傷(留置後650日)を検出できた症例。生理食塩液注入時に軽度の痛みを訴えたために、同日直ちに造影を行ったが造影剤漏出は検出されなかった(2A)。血液逆流も認められた。本人と協議し、ポートを抜去したところ、コネクター部から15mm末梢側に孔が認められた(2B、矢印)。腕を挙上して撮影したCTを再検討すると、損傷部に一致してカテーテルのキンクが疑われた(C、矢印)。この場所に繰返し応力が働いた可能性がある。
カテーテル材質にはポリウレタンとシリコーンの2種類があるが、繰り返し応力が損傷の原因と考えているので、当院ではこのままシリコーン製のグローション®カテーテルをメインとして使用し続ける考えである。実際、ポリウレタンカテーテルの方が損傷しやすいという報告もある[2]。
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現時点では我々はカテーテル損傷を次のように解釈している。
- 留置期間が長いほど、生活活動が活発なほど損傷の頻度が上昇する。
- 損傷時期・症例を正確に予測することは不可能である。
- 一定の確率で損傷は必ず生じるという認識が重要である。よって抗がん剤注入前に生理食塩液を注入して患者の反応を詳細に観察することが必要である。
- 生理食塩液を注入した時点で痛みや違和感を訴えた場合は損傷を強く疑う。造影検査や再留置を直ちに検討すべきである。
- 損傷を危惧するあまりに患者の活動制限を行うべきではない。
2. おわりに
本来医療機器というものは破損してはならないが、医療機器に対して完璧を期待することは、限界があるということをはっきりと認識する必要がある。リスクはゼロにはできないが最小限にするという考え方が重要と考える。
参考文献
[1]石川晶久、入江敏之、岡裕爾。皮下植え込み式中心静脈ポートを造設した消化器悪性腫瘍症例の検討。消化器科。48( 5): 582-585,2009
[2]Vandoni RE, Guerra A, Sanna P, et al. Randomized comparison of complications from three different permanent central venous access systems. Swiss MedWkly,139: 313-316, 2009.
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