トラブルを回避するために・・・アルゴリズムを用いたCVポート管理

北里大学病院化学療法センター部 外科 蔵並勝先生

1. はじめに・・・

 今日における新規抗がん剤の開発や投与法の発展は高い治療効果をもたらした一方で化学療法中のQOL配慮が重要となってきました。
 外来での化学療法普及に伴い、患者様の日常生活を損なう事なく治療を行うための様々な工夫がなされています。その一つが抗がん剤投与ルートとしての中心静脈(以下CV:Central Venous)ラインの利用です。
 近年の化学療法は連日あるいは長時間にわたり施行され、壊死性抗がん剤を用いたレジメンも多く含まれます。そこで、QOLに配慮し長期の反復投与でもルート確保が比較的容易に行える「CVポート」が用いられるようになってきました。

2. CVポートを用いた化学療法の実際

 CVポートを用いた化学療法は、郭清により末梢ルートの使用が制限される乳癌領域などで用いられてきました。近年では大腸癌領域においてFOLFOXやFOLFIRI等の有効性が明らかになりその利用は著しく増加しました。一方、長期にわたる使用に伴いカテーテルの破損や薬剤漏出等の重篤な健康被害発生に常時配慮しなければならなくなりました。
 海外ではCVポートに関する多くの管理マニュアルが提示されていますが、わが国では個人の経験に基づく管理方法で運用されているのが現状です。時として専門教育を充分に受けていないスタッフが関与するケースも見受けられます。
 CVポートによる有害事象の多くは適切な知識があれば回避できるものが多く、一旦発生した有害事象は患者様に侵襲を与えるだけでなく、治療の停止を招きます。
 われわれの施設で試行錯誤を繰り返しつつ作成したCVポート運用時のチェックリスト(図1)及び使用フロー(ポート運用のアルゴリズム(図2、3))を提示し、より安全な化学療法実施の参考にしていただきたいと思います。

3. 北里大学におけるCVポート運用フローの実際

Step 1 運用手順のチェック

チェックすべき項目を網羅したチェックリストを用いて、手順にもれがないかを随時確認しながら運用を行っています。

チェックリスト(図1)

◆運用前のチェックポイント
カテーテルの挿入部位は?
使用カテーテル及びポートの種類は?
カテーテルの先端位置は?(胸部レントゲン写真による確認)
ピンチオフグレードは?
滅菌処置は万全か?
ヒューバー針を使用しているか?
輸液ポンプを使用しているか?
◆運用時のチェックポイント
逆血確認を行ったか?
生理食塩液注入時に違和感はないか?
・注入時の抵抗
・注入に伴う局所の痛み、腫脹、発、違和感など
痛み・腫脹・発赤・ルート異常の有無など
輸液の自然滴下は良好か?(ポンプ装着前に確認)
投与中の確認事項(2、5、10~30分毎)
 ・痛み・腫脹・発赤・ルート異常の有無など
治療終了時に「パルシングフラッシュ※」を行ったか?
ヘパリン加生理食塩液あるいは生理食塩液によるカテーテルロック(注)を行ったか?
(注)使用するロック液はカテーテルの種類により異なります。グローションカテーテルの場合は生理食塩液でロックする事ができます。

※パルシングフラッシュ…フラッシュの際、数回に分けて注入する(押す 止めるを数回繰り返しながら注入する)事で、ポート内に乱流を発生させてより高い洗浄効果を発揮させる方法

Step 2 アルゴリズムを用いた運用フローの実施

本アルゴリズムを活用する事で、スタッフ間で統一した判断のもとに治療を行うことができます。

◆ポート運用のアルゴリズム:治療開始前(図2)

イメージ

◆ポート運用のアルゴリズム:治療終了後(図3)

イメージ

4. こんな時は要注意!

「逆血がない(あっても微弱)」、「試験注入ができない」などの場合は以下のことが考えられます。

◆ルートの問題

・クランプは開放されているか?
・ルートは屈曲していないか?

ルートをチェックし、問題が解決できた場合は輸液を再開する

◆手技の問題

・逆血確認の手技は適切か?

<グローションタイプの場合>10mLより大きなシリンジでゆっくりと陰圧を加えながら1mL程度のところで2秒程度止め、バルブが開くのを待ってから更にゆっくりと陰圧を加えていく

◆カテーテルの問題

・カテーテルピンチオフ
・カテーテル内腔の狭小化・閉塞
・フィブリンシース
・カテーテル先端位置異常

医師に連絡

5. 事例紹介

・60歳代女性:左乳癌リンパ節転移・肝転移に対する化学療法目的に右鎖骨下静脈にCVポートを造設
・造設後の胸部レントゲン:ピンチオフは認められず第一回化学療法施行 特に問題なく経過
・アルゴリズムに沿って第二回化学療法開始
・逆血確認時に微弱な逆血を少量認める
・生理食塩液試験注入時、皮下ポケット部瘢痕より液体の漏出を認める・・・(1)
・医師に連絡
・胸部レントゲンにてポート本体とカテーテルの離断を認める・・・(2)
・造影下にカテーテル除去

アルゴリズムに沿った処置により抗がん剤の皮下漏出を回避

イメージイメージ

6. おわりに・・・

 CVポートの構造・合併症及びその対応を熟知しましょう。
トラブルが疑われる場合はアルゴリズムに沿って適切な対応に努める事が肝要です。必要に応じて造影検査等の確認も行いましょう。
 正しい知識に基づいたCVポートの運用が患者様への適切な治療の提供につながります。

【カタログ一覧】

【添付文書】は、弊社コーポレートサイトをご覧ください。

先生のご所属は、掲載時点のものです。
※事前に必ず添付文書を読み使用上の注意等を守って正しくご使用下さい。
製品の仕様・形状等は、改良等の理由により予告なく変更する場合もございますので、あらかじめご了承下さい。

本テクニック等は個々の症例における患者様の特性や状態、術者の経験に基づいて実施される必要があることにご留意ください。
最終更新日:2015.12.07