内頸静脈ポートの「勘どころ」
社会福祉法人恩賜財団 済生会松阪総合病院
放射線科 寺田尚弘先生/中川俊男先生/加藤幹愛先生
/里見知恵子先生/海野真記先生
1. はじめに
近年の癌化学療法においては、外来化学療法の普及、新たなレジメンの登場による治療成績の向上に伴って、薬剤の投与期間が長期に及ぶことや、末梢静脈の確保が困難となる場合が少なくない。その解決策の一つとして皮下埋め込み型中心静脈カテーテル(以下CVポート)が選択されている。
2. 当院におけるCVポート留置の際の血管選択と穿刺方法
CVポートを留置する為の血管穿刺部位に関しては、鎖骨下静脈、内頸静脈、大腿静脈、尺側皮静脈等があるが、当院では、内頸静脈を超音波ガイド下に穿刺する手技を習得することも目的としており、第一選択として右内頸静脈を選択する場合が多い。
この為、1カ月の間に10例から15例を1人の医師が穿刺している。
穿刺に使用する超音波装置も血管穿刺専用があればよいが、無くても汎用の超音波装置に滅菌プローブカバーを装着して穿刺を行えばよい。これは、血管穿刺専用の超音波装置が無い場合にも対応できるようにしている為である。
3. CVポート留置の内訳
当院では2009年1月から2009年12月までの期間に196例のCVポート留置を行っている。主に外来化学療法目的であるが、最近では癌化学療法以外に脳梗塞等で血管確保が必要な患者に対してもCVポートが留置されている。
化学療法…男性92名 女性65名 平均年齢68.2歳
化学療法以外…男性12名 女性27名 平均年齢 78.8歳
胃癌 | 27 | 食道癌 | 13 |
膵癌 | 15 | 脳腫瘍 | 4 |
大腸癌 | 22 | 泌尿器癌 | 11 |
肺癌 | 19 | 婦人科癌 | 3 |
血液疾患 | 15 | 頭頚部癌 | 4 |
乳癌 | 18 | 皮膚癌 | 1 |
肝胆道癌 | 5 | TPNその他 | 39 |
4. 穿刺部位の内訳
穿刺血管の選択順序としては内頸静脈、次いで鎖骨下静脈、そして前腕の静脈としている。
まず右内頸静脈を超音波装置で確認した後に、血管径が細い症例や血管の虚脱などの穿刺困難な場合に、左内頸静脈、鎖骨下静脈といった他の血管への穿刺に移行している。
穿刺部位(2009年1月から2009年12月) | |
右内頸 | 158 |
左内頸 | 14 |
右鎖骨下 | 14 |
左鎖骨下 | 5 |
右前腕 | 4 |
左前腕 | 1 |
5. 成績
留置成功 196例 100%
留置失敗 0%
6. ポート留置手技の合併症
・カテーテルのキンク(屈曲) 2例
・気胸 1例
7. 内頸静脈穿刺のコツ(ガイドワイヤの選択)
超音波装置にて内頸静脈を描出した際に、内頸動脈よりも大きくて太い楕円形で描出される場合は、J型のガイドワイヤで十分挿入可能であるが、扁平な形をした静脈の場合や動脈よりも細く描出される静脈の場合は、アングル型のガイドワイヤを使用しないと挿入が困難となる場合がある。また、血管が虚脱している場合は穿刺困難な事が多い為、他部位への変更を検討する(鎖骨下、前腕など)。傾向としては、化学療法目的の患者は虚脱していることは少ないが、脳梗塞、食事摂取困難、PEG(胃瘻)で嘔吐を繰り返すなどしている症例は、高齢であることや、低栄養といった理由により、脱水から静脈が虚脱している場合がある。(CVポート留置の約20%は、化学療法目的以外であり、低栄養、高齢である場合が多い)
*内頸アプローチにて鎖骨上を穿刺する場合でも深く刺入すると肺に到達してしまう事にも注意すべきである。(気胸は1例経験)
*被覆材(ウレタン等)で覆われているガイドワイヤは金属針と併用しないこと。
8. 皮下トンネル作成のコツ(カテーテルのキンク防止)
トンネル作成の手順としては、いったん皮下ポケット部から内頸静脈穿刺部位(カテーテル刺入部)の2cm~2.5cm外側を目指してトンネラーを進め、カテーテル刺入部とトンネラー先端が同じ高さになってからカテーテル刺入部に向けて方向転換し、トンネラーを通過させる。こうすることでカテーテルの屈曲やねじれ(キンク)が起こりにくくなる。また、2段階でトンネルを作成する方法も有効である。(直線的にカテーテル刺入部へトンネラーを進めると、カテーテルがキンクする場合が多い)
9. 「手技のポイント」
① 穿刺位置について
鎖骨の直上に超音波装置のプローブを置き、その上で穿刺するのが基本だが、最もよく見える位置で穿刺することが大切である。
この際、カテーテル刺入部での屈曲やねじれ(キンク)を防止する目的で高位で穿刺することは避けている。
穿刺部位をメス(尖刀)で約5mm程度の切開を行う際に、穿刺部位の内側から切開をいれると容易である。大きな切開をする必要はない。(縫合は1針程度となる)
② 超音波ガイド下での血管の様子
血管の虚脱例では、J型ガイドワイヤを用いると、血管内でガイドワイヤが進みにくくなり、血腫を形成してしまうことがある。虚脱している場合には、先端アン グル型のガイドワイヤを使用すると比較的容易にガイドワイヤを進めやすい。
③ トンネルの作成方法について その1
トンネルの作成はトンネラーのカテーテル接続部を先端側として使用し、皮下ポケット部からカテーテル刺入部へと向けて行う。この際に皮下ポケット部へ直線的にトンネルを作成するとカテーテルの屈曲やねじれ(キンク)が急峻となってしまう。いったんカテーテル刺入部から2cm~2.5cm程度外側に向かってトンネラーを進め、トンネラー先端とカテーテル刺入部が同じ高さになってから、カテーテル刺入部の方向へとトンネラーを進めるようにしている。この手技を行うことにより、カテーテルの屈曲を緩やかにできる。皮下トンネルの距離については、鎖骨直下に留置する場合、10cm~15cm程度となる。
(痩せている患者は、鎖骨上でくぼみがみられ、トンネラーを進めることが困難である。このような場合、皮下に生理食塩液を注入して浮き上がらせるなどの工夫により、トンネラーを進めるようにしている。)
④ トンネルの作成方法について その2
さらに当院では、「モスキート鉗子」を使用して皮下トンネルを2段階に分けて作成する方法へと工夫を加えている。この方法も、カテーテル刺入部でのカテーテルの屈曲やねじれ(キンク)を軽減できる方法である。
方法としては、まずカテーテル刺入部より2cm~2.5cm外側を切開し、モスキート鉗子で皮下トンネルを作成する。それからカテーテルを外側切開部まで通過させる。
そして、皮下ポケット部へとトンネラーを使用して皮下トンネルを作成し、カテーテルを通過させる方法である。
以前の方法と比較して、トンネラーで外側を狙う必要が無いことと、皮下組織の走行に対して垂直方向にトンネルを作成することにより、皮下トンネルが作成しやすくなることがメリットとしてあげられる。
付属のトンネラーは自在に曲げることができるが、慣れていないと硬さがあるためトンネル作成の際に調整が難しい。この方法を始めてから、特に問題もなく合併症は経験していない。(現在当院では、全ての症例において2段階でトンネルを作成する手技に変更している。)
⑤ ポートの留置部位について
皮膚の切開は尖刀メスではなく、円刀メスが切開しやすい。
ポート本体は鎖骨下のできるだけ外側に留置することにより、カテーテルの屈曲やねじれ(キンク)が緩やかになるよう調整している。また、当院では抜糸の必要が無い埋没縫合を基本にしている。
⑥ 使用するデバイスについて
10. おわりに
CVポートは中心静脈ルートへのアクセス方法として、今後ますます普及していくものと思われる。
今回紹介した内頸アプローチの「勘どころ」である超音波ガイド下の血管穿刺のポイントと、皮下トンネルの作成方法のポイントを意識することで、CVポート留置の成功率を高めるとともに留置後のカテーテルトラブルを減少させることができると考える。
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