コラム:米国オンコロジーナースに聞いてみよう

1. デバイスの選択、使用、そして患者さんとのかかわりに焦点をあてて

お話を頂いた先生の紹介

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Lisa Shulmeister(リサ・シュルマイスター)先生
MN,APRN-BC,OCN,FAAN
Oncology Nursing Society(米国がん看護協会)編集員
ルイジアナ州立大学看護学講師、オンコロジーナースコンサルタント
経歴・資格:
ニューヨーク州ハートウィック大学看護学部卒業
ルイジアナ州立大学 Nurse Practitioner及びClinical Nurse Specialist修士課程終了

テーマ:「血管アクセスデバイスの選択と患者教育におけるオンコロジーナースの役割」
   'The Oncology Nurse's Role in Selecting IV Access Devices and Educating Patients'

2. オンコロジーナースの役割

 すでに私たちがよく知っていることですが、ナースはドクターと患者さんを橋渡しする仕事です。化学療法の現場で患者さんがよい治療を受けるためには、ナースの役割がたいへん重要です。治療内容や抗がん剤の投与方法を患者さんに説明する、患者さんの静脈を良好な状態に保つ、安全に投薬を行う…といったことはもちろんですが、患者さんのニーズや希望をドクターに伝えることも大切な役割です。ナースは患者さんに最も近い存在であり、その求めているものを最も正確に把握できる立場にあるからです。
 がん治療を最善のものにするために、ナースは勇気と熱意をもって、患者さんの代弁者とならなければなりません。

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 もし、ナースが十分に患者さんのニーズを代弁しなければ、どのようなことが起こるでしょうか(スライド1)。例えば、静注開始時に末梢静脈留置針(PIV)の穿刺がなかなか成功しない、治療の途中で使用デバイスをPIVからCVポートに切り替えなければならなくなるなど、患者さんにやさしい医療が行えなくなります。あるいは、場合によっては血管外漏出などの重篤な合併症を起こし、それゆえに治療計画通りの量の薬剤が体内に送達されないということも起こりえます。
 反対にナースが積極的に発言し患者さんのニーズを十分に代弁すれば、その患者さんの治療に携わる患者さん自身を含むチーム全員の力が集結し、最良の結果につながります。
 米国においてナースは、ドクターと同等の地位にあるとみなされています。ナースとドクターはそれぞれの専門知識や経験を互いに尊重しており、対等に意見交換を行う環境が整っています。

3. 血管アクセスデバイスの選択

 静注化学療法を処方する際に検討しなければならない事項がいくつかあります。治療プロトコル、薬剤の投与方法、抗がん剤以外に使用する薬剤、治療期間、患者因子・患者の希望、ガイドライン・推奨事項などです。たとえば治療プロトコルに関して、使用する薬剤によっては(多くの抗がん剤がこれに当てはまりますが)末梢から投与した場合、血管に炎症を生じたり、漏出すると組織に多大なダメージを与えたりするリスクがあることを理解しておく必要があります。静脈注射で使用される薬剤には血管に炎症が生じることがある腐食剤や組織に漏出しダメージを与える起壊死性抗がん剤を含むことがあります。
抗がん剤血管外漏出により患者さんの創傷ケアが必要になると同時に、化学療法の中断を余儀なくされるケースもあります。

 以上のようなことを考慮したうえでデバイスを選択するのですが、それぞれのデバイスの適応について述べたいと思います。まずPIVによる末梢静脈投与には、患者さんの前腕部に良好な状態の血管が求められます。さらに、リンパ節郭清など静脈穿刺に対する禁忌事項がないこと、短期間(6ヶ月未満)かつシンプルなプロトコルでの化学療法が計画されていること、末梢から抗がん剤を投与することについてのリスクと合併症予防方法を患者さんが十分理解できていること、などの条件を満たしている必要があります。
 一方、使用薬剤がpH<5またはpH>9の場合、オスモル濃度が600を超える薬を投与する場合、起壊死性抗がん剤の投与が1時間を超える場合、静脈アクセスを要する期間が3ヶ月を超える場合などは、中心静脈アクセスデバイスの適応になります。米国ではこのような基準に従って、アドリアマイシン(ドキソルビシン)を投与する乳がんの患者さんには、CVポートの使用が普通になっています。

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 ナースはそれぞれの患者さんに何が最も望ましいかを判断できる立場にありますから、その観点からデバイスについてもプロアクティブに、率先して意見を発していくことが大切です。米国では、ナースは血管アクセスデバイスを選択・使用することについて、すべてのステップに関与します(スライド2)。ニーズが発生してからそれに対応するのではなく、ニーズが発生する前から自ら行動することこそがプロアクティブといえます。進んで行動し、それをより良い結果に結びつけていくことが重要です。

4. 患者教育

 患者さんへの教育も大切です。治療が始まる前に、「何のデバイスを」「どこに」「どのように」使用するのか、さらに、そのデバイスを使用するリスクと利点、合併症、デバイスのケア方法、使用予定期間について説明を行います。パンフレットやWeb上の情報など、さまざまなツールを使用します(スライド3、4)。仮にCVポートの使用に恐怖感を抱いている患者さんがいた場合、私はツールを用いて説明し、さらに同じ病院で既にCVポートを使用している患者さんの生の声を聞いてもらうなどして、根拠のない不安を解消するようにします。何よりも大切なことは、いかに患者さんと信頼関係を築くか、ということです。

●米国の事例 「Veins for Life」 http://www.veins4life.com/

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●日本国内でも、患者さんにデバイスをよりよく理解してもらうため、パンフレットやWebサイトを使用することができる。「化学療法サポート」 http://chemo-support.jp

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5. チーム医療

 同僚のナース、患者さん、ドクターとの知識の共有を行うことをお勧めします。患者さんには、自身が治療チームの一員であるということを自覚してもらいます。そして、ナースがベストな選択であると判断した事柄については、ナースから患者さんに話します。患者さんがドクターと治療について話したり、希望を伝えたりできるよう、患者さんを後押しすることで、ナースの意向がドクターに伝わることもあるでしょう。
 ドクターに対しては、ナースが患者さんの状態を最もよく把握できる存在であるということを伝えていきましょう。このようなドクターとの対話は日常的におこなわれる必要があります。ナースにはデバイスを使いこなせる能力が十分にあるということを実証していく、粘り強い努力が必要です。
 患者さんに最適な血管アクセスを実現するためには、他のナースと連携することも大切です。症例検討会を開いて、実際に現場で直面した問題について皆で話し合うことは有効でしょう。最適なデバイスを選択するために院内で使用できるガイドラインを整備することも意義のあることです。何より重要なことは、グループとして強いコミットメントを共有することです。患者さんにとって最適なデバイスを選択することは患者さんのためであり、それを実現するのはナースの使命である、という強い気持ちを持って臨んで頂きたいと思います。
 静脈アクセスの現状を見直し、改善のための対策を検討するチームの結成もぜひ行って頂きたい活動です。特に、院内での治療成績に注目し、データを整備すること(たとえば、あるデバイスを使用したときにどれくらいの割合で感染が起こったか、途中でPIVからCVポートに切り替える割合はどれくらいか、など)は有用です。

がん看護において、患者さんとのパートナーシップは何より大切です。患者さんのために、ナースの皆様がプロアクティブでダイナミックなアクションを起こされることを強くお勧めいたします。

6. 質疑応答

Q:米国ではCVポートの使用割合はどれくらいなのですか?

A:私が所属しているクリニックでは、静注化学療法をしている人の85%から90%はPICCかCVポートを使用しています。そのうちの大半がCVポートです。PIVは5%以下です。CVポートは乳がんの患者さんに使用されることが最も多く、乳がんに使用する薬剤の種類がその第一の理由ですが、患者さんの利便性や快適性もその理由のひとつです。CVポートを使っていると、薬剤投与中に院内を動き回ることもできますが、PIVではそうはいきません。

Q:CVポートをどうしても嫌がる患者さんがいます。米国でも同じようなご経験はありますか?

A:まずありません。米国ではCVポートが非常に広く認知されているという点が、日本との違いだと思います。静注化学療法を始めることになった患者さんがまず私たちに聞くことは、「私のポートをいつ埋め込んでくれるのですか?」であったりします。患者間の情報交換も活発で、CVポートを使用している人の感想や、PIVを頻繁に挿入しなければならないつらさなどを共有しています。
ただ、もしポートに恐怖心を抱いている患者さんがいる場合は、インフォームドコンセントが重要なので、まずは粘り強く患者さん教育の努力を続けます。なぜそのデバイスの選択が患者さんのためにベストであるかについて、その根拠をありとあらゆるソースから得るようにします。例えば血管外漏出などが起こってしまうと、化学療法の中断、創傷ケア、それに伴う感染のリスクにつながります。それを説得力のあるやり方で、かつ優しく、患者さんに話をするようにしなければなりません。

Q:逆血確認が原因で閉塞や滴下不良を起こした、というような例はありますか?

A:逆血確認は、正しく手技を行えば閉塞や滴下不良の原因にはなりません。正しい逆血確認の行い方ですが、少量の血液を引き、直ちに生理食塩液でフラッシュを行います。血液が凝血するには10秒から15秒かかりますので、このような手技を行えば閉塞の原因になることはありません。

Q:患者さんにCVポートを勧める際、「末梢から投与できているのになぜポートにしなければいけないのか」という問いにどのように答えればよいか困っています。血管外漏出の発生率も、パーセンテージで言うと非常に低い値になるので…。

A:ビジュアルに訴えることが最も効果的ではないかと思います。血管外漏出を起こした患者さんの写真などを見せることで、発生確率は低くても、万一トラブルが起こってしまったらこんなたいへんなことになる、と実感させることができると思います。
また、数字は見せ方によって全く違った印象を与えるものです。確かに漏出は発生する確率は低いです。ですが、一回の漏出でも、そのダメージはものすごく大きいものです。自分の施設で治療を受けているたくさんの患者さんひとりひとりが、そのようなダメージを受けるリスクを抱えているということは、たいへん由々しきことです。

最終更新日:2015.12.07